鏡の中





家に着くと、そこには紛れもない、彼女の靴。


寝室には……気持ちよさそうに寝息をたてて寝ている愛しい人がいた。



「んだよ」


バイクの鍵をそっとサイドテーブルに置く。



髪の毛を乾かさないで寝ている、それすら彼にとっては愛しかった。




「仕方ねえな」

ボソッと独り言をつぶやき、ドライヤーを持って再び寝室へと戻る。




…しかし。


そこには、涙を流しながら志以外の男の名を呼ぶ…那がいた。





「きょ……い」


わかってた。


自分以外の人と付き合ったことがないわけなんてない。



誰にだって過去はある。



わかってた…





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