鏡の中
那が笑った瞬間、誰だかわからなかった女の名前まで一瞬で思い出せた。
なのに、どうしてだろうか。
もう失った記憶が戻ってこない。
焦燥感を交えたイライラはきっと那に伝わっていたんだろう。
いつものように、ちょっと眉を下げた那が志の手を引く。
外は6月独特の梅雨のにおいがした。
「ありがとう、那。」
「いいんだよ。志のことならなんとなく感じられるんだ。きっと言い出しづらいことなんでしょう?」
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