鏡の中




もちろん門をくぐる前もくぐった後も、身にまとわりつく黄色い声を振り払うことはできない。


「今日もかっこいいね、志くん。」

「うん、こっち見てくれないかな。」

「今日1限体育みたいだから、見に行こうよ!」



こそこそと話し声がところどころから発されていた。

しかし、そんなことを知ってか知らずか彼はそっと音楽のボリュームをあげた。





一人の世界に入って、誰にも話しかけられなければいいのにとさえ思ってしまう。


それもこれも、何も知らないのに彼を王子様のように扱う女がいけないのだ。



容姿から勝手に先入観を持ち、固定概念へとかえてしまう。


彼にしたら、困る要素間違いなしなのに、誰も気づいてあげられない。





清楚な格好から、きっと何が好きだとか、きっとこういう女の子が好きなんだとか、こういう生活をするとか、こういう風に笑うだとか、感情をあらわにすることはないだとか、なんだか彼自身が自分自身をさらけ出すのが、申し訳なく感じてしまうほど、そういった考えは彼を縛り付けていた。


でも、彼はそれをかまわず、逃げなかった。



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