晴れ、のち晴れ
あたしの視線に気付いた葵が顔をあげて左手を見せた。
「矯正したんだ。お陰で、どっちの手を怪我しても、生活に困らない」
「へぇ、わざわざなおしたんだ」
クラスメイトの中には左利きの奴もいたが、皆左利きのまま生活していた。
葵のように、右利きとなんら変わらないまでに、右手を使っているような奴はいなかったような気がする。
あたしの言葉に夢香が深くため息をはいた。
「昔はなおしたことが多かったみたいだけれど、今時そんなことしないわよね。……でも、うちの一族にはね、頭の固い人たちがいて、左手でお箸を持つお兄様を見て、みっともないって言ったのよ。それでなおしたのよね」
「あぁ…まあ…」
「た、大変なんだな…」
相変わらず、想像出来ない世界に二人は住んでいた。左利きの方が格好良いのに、とあたしは思う。
「だけど、右利きに矯正した方が便利なんだよ。ハサミもわざわざ左利き用の買わなくていいし、自販機や改札なんかも、右利きの人用に作られてるから」
「そうなんだ…」
左利きには、右利きなあたしにはわからない苦労があるらしい。
それはともかくとして、あたしは、器用にシャーペンを回す葵の左手ではなく、右手へ視線を移した。
話題に出ないよう、葵は故意に隠している。
あたしは、そう感じた。
「で、右手の怪我はどうしたんだよ」
ならば、はっきり、きっぱり、直球で聞くしかない。