晴れ、のち晴れ
葵は左手のシャーペンを止め、押し黙る。
あたしは、じっと堪えて次の言葉を待った。
最初に口を開いたのは、葵ではなく、夢香だった。
「この世で自分が一番大切だとしても、他の誰かを傷つけていいわけじゃないわ」
ため息混じりに呟いた。
「でも、時々忘れてしまうことがある。…私も人のことを言えないけれど」
夢香は話を続けることなく立ち上がり、二階の自室へと向かった。
急な行動に戸惑うあたしへ葵が苦笑する。
「怒っているんだ、あいつ。…俺が怒らないから」
そう言って包帯の巻かれた右手へ静かに視線を落とした。