晴れ、のち晴れ

「何やってるんだ、お前ら!」

駆け寄って来た三宅が、葵の手を見て息を飲むと、慌て鞄からタオルを取り出し巻いた。

刺した張本人は放心したように手からカッターナイフを落とす。

「ち、ちがうっ、僕はやっていないっ!!」

「そんなことより、保健室が先だろ」

葵は見知らぬ生徒が、なぜこんなことをされるのか、まだよく分からないでいた。

「いや、いい。大事にしたくないからタクシー拾ってこのまま帰る」

だが、これが表立てば騒ぎになるだろう。それはあまり嬉しいことではなかった。

「おい、何言ってんだよ、幕間!」

怒ったような三宅を制して首を振る。

「な、なんだよ…いい子ぶったつもりかっ」

向けられる悪意に少しだけ心が痛んだ。

「違う。悪いけど俺は、誰なのかさえ知らない奴に、なぜこんなことされなくちゃならないのか分からないんだ。

でも俺が知らない間に傷つけていたのかもしれない。

そうだったら申し訳ないと思うけど、今ので気が済んだだろ。早く帰らせてくれ」

痛みがじんと広がり思考が鈍ってくる。

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