晴れ、のち晴れ
「最近真面目だな…」
隣の笹木野が不思議そうに聞いた。
「いや、あたしも一応受験生だし?」
あたしの返答に、笹木野は冗談を聞いたような笑いを浮かべた。
おい、こら、なんだその笑いは。
「いい家庭教師を見つけたんだよ」
仕方ないのでこっそりと本当に近い嘘を教える。
「へぇ。それって男?」
「まぁ、そうだな。あたし女には嫌われるし」
笹木野は少し黙ってあたしを観察するように見つめた。
「七篠が、家庭教師ぐらいで勉強するとは思わないんだけど」
なかなか鋭い笹木野の指摘に、あたしはおっとなった。確かにあたしは、普通の家庭教師だったらこんな風に真面目にノートを取ったりしないだろう。
でも、違うのだ。あたしが勉強するのは、勉強中毒になっている葵の気晴らしになるためなのである。
目的のない勉強なんてこれっぽっちも興味がなかったけれど、誰かのためになるなら話は別だ。