彼女が男装する理由
あんなに強く掴む手の力がだんだんに
緩んでいく。
私は、その場に力が尽きたように
座り込んだ。
自分の本当の性別を知られて、
今は玲愛の顔が見れない。
数分たっただろうか…。
男子トイレの中は外の生徒たちの
騒ぎ声がはっきりと聞こえるくらいに静かだ。
こんなにじっとしていたってバレたことには
変わりない。
何とか、玲愛に秘密にしてもらおうと、
「 ホントは、私女なんだ…。だから、
女ってことは皆にお願いだから
バラさないで…。」
そう言いながら、その場から離れた。
その時、玲愛が何かを言っていた気がしたけど
空耳だろうと思い、気にしなかった。
授業内容をノートに写している時、
( なんか、凄い視線を感じる気が… )
視線を感じる方向を見ると、
玲愛が私をすごい眼力で見てくる。
慌てて、視線をそらし、
黒板に向く。
あれは…怖すぎ…
玲愛には、私が女ってことが
バレてしまった。
どうか、誰にも言わないでいて欲しい。
私が女ってことがバレるのは、
もしかしたら時間の問題かもしれない。
どうしよう…もしバレたら、
女のくせに男装とかしてたのかよとか
言われそうで怖い…
頭を抱えて、下を向いていたら
「 おいっ、真琴!!聞いてるのかー!! 」
ベシッ
「 ぃいいいっだだああああああああぁぁっ!
先生、いくら俺が授業聞いてなくても、
それは痛いっすよおぉ…。」
クラスの生徒たちが一斉に笑った。
「 真琴、ちゃんと話聞いてろよーw 」
あちこちから、そんなような事を
言われて、クラスは笑い声に包まれた。
その笑い声につられて一緒に笑った。
その時…
「 なあっ!! 」
授業中にも関わらず、大声で
笑い声をさえぎった玲愛が私の方を見てくる。
突然過ぎて、私はその場を見ていることしか
できなくなってしまった。
「 なんだ。玲愛、分からないところでも
あるのかー? 」
「 そいつ。」
玲愛が私を遠い席から指さしてくる。
クラス全員は私の方に集中した。
「 んーと、…ま…?…なんだっけな…まき?
いや、違うな… 」
あいつ…女ってことバラそうとしてる…?
「 おい。玲愛、何が言いたいんだ?
さっさと、授業始め… 」
「 あっ!そうそう、真琴!! 」
いや、ちょっと待て…
この状況物凄くやばい気がする。
「 真琴がどうしたんだ。急に。」
「 真琴って奴、実は… 」
うおおおおっいっ!
女ってバラそうとしてる。完全にっ。
私は、玲愛のことを強い眼力で見た。
?
…その時、玲愛が小さく笑った気がした。
「 実は、真琴先生のことが好きらしい
ですよー。w 」
…え?今、なんと?
「 なーにをまったく、変なことを言って
いるんだ。さっさと授業始めるぞー。」
クラス中はざわめき始めた。
でも、どうやら私のことでざわめいているわけ
では無さそうだ。
「 ねぇ、あの人って学校でめっちゃ、
問題児になってる人でしょー? 」
「 うん、そうそう。あの容姿は凄く、
良いのに問題児って言うのがねー。
もったいないわー。」
心臓がバックンバックン鳴っている。
玲愛の方を見た。
玲愛は私を見て、性格の悪そうな笑みで
笑った。
一瞬にして、結論が出た。
単に、弱みを握られたんだ。
いつ私が女ってことがバレても、おかしくない。
私は、初めてあいつがどんなに恐ろしいやつか
思い知らされた。