彼女が男装する理由
過去と記憶
ドックン…ドックン…
心臓がなり叫ぶ。
「 や、やだな!冗談キツイよw…っ! 」
嬉しさのあまり、照れてしまう。
その感情が玲愛に気づかれたらって思うと恥ずかしくなって、隠すかのように笑いながら喋った。
( 玲愛の顔が、今見れない……っ )
「 …冗談じゃねえよ 」
真剣に言ってきた。
自分が想像してた返事と全然違って焦る。
___この前の事を思い出す…___
《 冗談?…お前には、そう聞こえたのか。》
ふと、このデートに誘われた時の事を思い出した。
自分が今、犯してしまった過ちにまた、後悔した。
「 …ご、ごめんなさい……っ。私また……、あ、の……っ 」
また、同じ事を繰り返して、また、あの感情になってしまうのが怖くて…。
焦りながら、冗談って言うのはそう言うのじゃないんだ……よ…って…………
「 香奈 」
焦っている私を落ち着かせるかのように低くて、優しいトーンの声で玲愛が呼んだ。
「 ……ぁ… 」
「 前の事は…その…ごめん…。俺自分勝手に… 」
私が考えていた事をまるで察した風に玲愛は言った。
「 いや、私もごめんね… 」
玲愛は、この空気のままじゃ気まずいと感じたのか、仲直り出来たように小さく笑った。
それにつられて、私も笑った。
私は素直に思った。
『 この時間が私にとってどれだけ大きな存在で救いだったか 』
少しづつでも、前の事に対して克服して行こうって思った。
そういうふうに、考えられるようになったのは、玲愛が居てくれたおかげだ。
二人の会話が途切れた。
玲愛が私の目を真っ直ぐに見てくる。
その目に捕まられたようになって、
恥ずかしくっても逸らすことができなかった。
玲愛の顔が近づいてくる。
( …キス…だよね…? )
初めての事だから、こういう事にどう対応すれば良いのか分からない。
……ふと、玲愛の後ろの光景を見た。
___…!!……___
私はその光景を見て過呼吸をしそうになり、手で口をおさえた。
「 …?…どうした… 」
玲愛が声をかけた。
その言葉を聞き入れることすらできる状態ではなかった。
玲愛が私の目線の先を振り返り見た。
「 …ご、ごめんっ…わ、私帰るね… 」
「 …ぇ…ちょ、香奈…っ、どうしたんだよ 」
私は、玲愛の言葉をシカトし、その場から走って後にした。
( …ハァ……ハァ……、 )
ガチャッ…!
……トントントントントン………_____
「 あら、香奈。今日どこいってたのよ……って、あの子どうしたのかしら。あんな急いで… 」
__……どうして…………__
私は、自分の部屋に急いで入り、ドアにもたれた。
力がなくなったように、その場に座り込んだ。
……どうして、あの人が………
私は、中学時代の時に関わりの合った人が通う高校を全部避けて、ここに引っ越し、入学した。
だから、あの人、あの人達は居ないはず……なのに……
どうして………居るの……?
あの時、中学時代の時に私をいじめていたグループの中心だった……
__木崎悠【きざき ゆう】が………_
今の状況に耐えきれなくなって、過呼吸になってしまう。
ッハァ、……ッスーハァ…ッハァ…ハァ……ッ
私は鏡に映る自分の姿を見た。
「 …今日のために綺月が結んでくれた髪型が台無しになっちゃった… 」
さっき、走ったせいで髪型がボサボサで乱れていた。
「 …私の髪の毛…こんなに長かったんだ…… 」
改めて思った。
「 今日、玲愛…に、少しでも、女の子らしく振る舞えたかな…… 」
自分の髪の毛を触った。
「 こんなに長いから、ビックリしたのかな…… 」
今日の出来事が夢のように感じる。
「 この服…玲愛…悪くな…… 」
………………っ………!
悠《 ブスはブスなりにしてろよwいくら、可愛い服きたって顔が駄目なら似合わねーんだよw 》
ポタ……ポタ…
涙が溢れた。
玲愛も、きっとそうなんだ。
なに、私てっきり…素直に喜んじゃったじゃんw
……………っ何を、素直に喜んでんだよっ…………!
自分だけ舞い上がって……何が夢のように感じるだよ………
鏡の前に、置いてあるハサミを手にとった。
____シャキン………ッ____
自分の髪の毛が床に散らばる。
綺月《 成功を祈るよ!! 》
「 …元から、このデートは成功するはず無かったんだよ…綺月…… 」
その日の夜は
泣き声だけが響きわたっていた。