生贄投票
ちょうどそのとき、部屋の中で固定電話の呼び出し音が鳴る。


「あっ、電話だわ。ちょっと待ってて……。あっ、よかったら上がって待っててくれないかしら」


「は、はぁ」


もう帰りますと言って失礼するべきかとも思ったけど、何となく押し切られた感じで、栞は明里の母の後を追って、自宅の中に入った。


普段親友の明里が生活しているうちの中に入り、周囲を見回してみる。


「嘘でしょ!」


中から明里の母の叫び声が聞こえて、栞は急いで奥の部屋に向かった。


「オバサン?」


「栞ちゃん……」


明里の母親は、顔面蒼白で唖然とした顔のまま、受話器を置く。


「どうかしたんですか?」


「多田川で身元不明の女の子の遺体が見つかって、特徴が明里に似ているから、確認に来て欲しいって」


「そんな……」


「お願い。一緒に来てくれない?」


泣きそうな顔で訴えてくる明里の母に頼まれて、栞は何も喋ることが出来ないまま、頷いた。
< 412 / 827 >

この作品をシェア

pagetop