メンタル !! \つばさ/ケア

ウォッチにつれられて長い廊下を歩いていくと、

淡いピンク色のドアの小さな部屋があった。


そこには

《ハートクリニック羊の羽》

という札が掛けてある。


「ハートクリニック羊の羽…??」


なんだろう…

不思議に思う私は、首を傾げる。


「このクリニックのお医者さんはね、

ここの学校の一人の生徒なの。」

ウォッチは掛札を指差した。


生徒がお医者さん…?

ワケガワカラナイ…


掛札の横には《予約リスト》という

掲示板がある。

そこには、たくさんの名前が書いてあった。


「この名前って、

ここのクリニックに予約を入れてる人の名前ですか?」


「そうよ。

あらー、今日は予約がいっぱいみたいね。」


ウォッチがバツが悪そうに

こめかみをかいた。


予約リストにはぎっしりと名前が書いてあり、

しかもその名前は女の子の名前ばかりだ。


「女の子の患者さんが多いのよ。

毎日来る子もいれば、

辛いことがあったときに泣きついて来る子もいるわ。

少し中を覗いて見ましょう。」


そう言ってウォッチは

ドアに手を伸ばした。


え…あんなにたくさん患者さんがいるのに、

私が邪魔しちゃってもいいの…?



ガラガラガラッ


ウォッチがドアを開けると、

部屋の中にいた10人くらいの女の子達が、

こちらに注目した。


「みんな、おはよう!

今日、この学校に転入してきた

有町明日架ちゃんよ。

少し見学に来たの。」


「ウォッチおはよーっっ!!

え!?転入生!?

わーい!!」


順番待ちの女の子の一人が、

私をキラキラな瞳で見て

はしゃいでいる。


すると、隣の子がその子を宥めた。


「しー!!

杏奈ちゃん声大きいよ!

今、叶ちゃんが相談してるんだよ!?」


な、なんか…みんな結構元気な子なんだね。

もうちょっと、病弱そうな子が

集まってるのかと思ってた…。


「杏奈、彼氏にフラレて落ち込んでたけど

転入生が来た嬉しさで

悲しさ吹き飛んじゃった!」


杏奈ちゃん…?は、

口に手をあて、ふふふと笑った。


「え…そんなことで…」


「そんなことなんかじゃないよ~!

転入生って、す~っごく嬉しいもん!

あれ?名前なんだったっけ?」


名前…

友達慣れしてない私は、

緊張で息詰まった。

ウォッチに助けを求めて目線を向けると、

「自分で言ってごらん」と言わんばかりに

私に微笑みかけた。


「あ、有町明日架です。」


自分の名前を言うだけで、

こんなに緊張する。

恥ずかしさで下を向いてしまう私に、

杏奈ちゃんはまた笑顔を向ける。


「か~わいい名前!!

そうだ!!《ありまちあすか》だから

《りま》って呼~ぼう!」


りま?

そんな名前で呼ばれるの初めてだ。

私はちょっとだけ嬉しくなった。


「私は、木倉 杏奈《キクラ アンナ》だよ!

よろしくね!」


杏奈ちゃんは私に手を差し出す。

私たちは握手を交わした。

杏奈ちゃんの手は凄く温かくて、

笑顔も凄く優しくて可愛くて、

私は少し泣きそうになった。


「そうだ!

杏奈の分の予約、りまが使いなよ!

杏奈もういいからさ!」


「えっ?いいの?

ありがとう…!」


本当に悲しさ吹き飛んじゃったの…?

ちょっと変わった子だなあ…

すると、杏奈ちゃんは

さっきとは違う小さな声で

私の耳元で囁いた。


「ハートクリニックは、

本当にいいところだよ。

名前の通り、《心の病院》。

元気になれる魔法を、

かけてもらえるんだ。

りまもここで、

何か変われるといいね。」


杏奈ちゃんは部屋を出ていった。

ハートクリニック…

心の病院…


私でも何か、変われるの…?


もう一度、

生きることを楽しいと思える日が

来るの…?



「次、木倉杏奈~。」


杏奈ちゃんの名前を呼ぶ声が聞こえる。

そう、私の番だ。


「りまの番よ。

ほら、

あそこに見える水色のカーテンを開けて

中に入ってみて。」


ウォッチが、部屋の奥にある

カーテンで仕切られてる場所を指差す。


私はゆっくりとした足取りで、

その場所へ近づく。


どんな子なんだろう。

優しいかな。

男の子?

女の子?



私は、恐る恐る

カーテンを開けた。




そこには――――。
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