WORKER HOLiC
HOLiC 1

:Ⅰ

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 夏も近い季節。

 梅雨も過ぎたこの季節は、朝は生温い。

 肌はべとべとするし、寝苦しいし、逆に汗のせいで寝冷えする事もちょっとある。

 目覚まし時計が鳴って、ふと眉をしかめた。

 あまり聞いた事がない音……?

 私はいつも、朝はジリジリと鳴る目覚まし時計で起きるけど、今聞こえているのは間違いなくクラシック音楽。

 何故……?

 と、目を開けてポカンとした。

 ……ここは、どこだ?

 見えるのは薄暗い天井。

 微かに視線を落とすと、足元の方には黒っぽいカーテン。

 その隙間から、朝日だろう……明るい光が漏れる。

 それから、軽いスプリングの音がして、右の身体が沈んだ。

「起こした?」

 低い声に、恐る恐る右側を見る。

 少し寝癖のボサボサ頭。

 毎日見ている、ちょっと愛嬌のある可愛い顔。

 ……年上に、可愛いってのも何だけど。

「あ、有野……さん?」

「うん。おはよう、加倉井さん」

 ニッコリと爽やかな笑顔で、有野さんはぴょこんと頭を下げる。

 状況が違えば、私もニッコリ微笑み返したかもしれない。

 だけど。

「ここは何処ですか?」

「ん? 俺のうち?」

「何故、有野さんが私の隣に?」

「そりゃ、うちの家にベッドが一つしかないから?」

「だけど……」

 何故、有野さん、上半身が裸なの?


 ………裸?


 恐る恐る、かかっている布団を持ち上げて、自分の姿を覗いてみる。


「……っ!? っ……!!」


 声にならない悲鳴に、有野さんは頭をかきながら首を傾げる。

「なんか……状況が飲み込めてない?」

 飲み込めるものかっ!!

 だいたい、朝起きたら見知らぬ場所で目覚めて、しかも上司が裸で隣に寝ていて、なおかつ自分も……

「キャ──────!!」

 いきなり叫んだら、有野さんはびっくりしたように飛び上がり、慌てて私の口を塞いだ。

「ちょ……っ。よくわからんが落ち着け」

 落ち着ける理由がないっ!!

 もがく私を有野さんは押さえ付け、耳元でポソリと呟く。

「暴れると、上掛け外れて見えるよ?」

 ピタリと動きを止めた。

 それはまずい。

「落ち着いて話そう」
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