WORKER HOLiC
「人の物を勝手にしまわないで下さい」

「やめてとも言われなかったし」

「普通、言わなくても返してくれるものだと思います!」

「返したら、帰るだろ」

「当たり前でしょう!?」

 ヒートアップする私に、飄々と答える有野さん。

 エレベーターが一階に着き、押し出されてますますムッとする。

「何なんですか!」

「いや、ちゃんと話をしようかと思って」

 ……はぁ?

「いつも会社で、きちんと話してるじゃないですか」

「仕事の話はね」

 当たり前だ、という風に見られ、頭がクラクラして来た。

「私、有野さんとお話する気分じゃないんです」

「こないだの方が、断然話が出来る雰囲気じゃなかったじゃないか」

 ……なんの話だ。

「君はガード固めてビジネスライクに行こうって言うし、そもそも、尋常な驚き方じゃなかったよ」

 ……それは、あの。

 こないだの土曜のお話でしょうか。

 ピシリと固まる私に、有野さんは頷いてきた。

「俺の言い分も言わせてもらわないと」

「納得してくれたんじゃないんですか」

「するはずがない」

 あっさり言われて、頭を抱える。

「だって、それで良いって言ったじゃないですか」

「俺は君の言い分を聞いただけだよ」

「何故、そうすんなりと前言を覆すんですか!?」

「そもそも、覆すような事を言ったつもりもない」

 有野さんは無表情に呟いて、さっさと歩きだした。

「とにかく、もう少し落ち着く場所に行こう。おしゃべりスズメが面倒だ」

 おしゃべりスズメ……

 もしかして、澤井さんたちの事なのかしら……

「それなら、ここに有野さんがいる時点で面倒な事になっていると思います」

「……そう?」

 有野さんは首を傾げ、ニッコリと振り返った。

「だけど、単なる噂になるだけだろ? ここであの夜の事を暴露するより、全然マシじゃないか」

 ……はい。

 まぁ……その通りなんですけれど。

 このままこの人について行くか。

 それとも、スマホは諦めてこのまま帰ろうか……

「それとも、このスマホを悪用して良いと言うなら……」

「それは犯罪です!!」

「うん。そういう訳だから、おとなしくついてきて」
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