WORKER HOLiC
 しばらくお互い無言。

 ……何よ。

 言いたいことがあるんなら、さっさと言ったらどうなのよ。

 じりじりしている私をよそに、有野さんはのんびりと胡座で寛いでいる。

 ……妙に合っている所が、何とも言えない。

 痺れを切らせた私が口を開こうとした時、有野さんがストップ……とでも言うように片手を上げた。

「お待ちどおさん!」

 襖の向こうから、さっきのおじさんが顔を出す。

 あ、そう。

 出鼻をくじかれて、少しだけ白けた気分になった。

 おじさんは上機嫌で、それぞれ焼き魚とお味噌汁、ご飯にお漬物などを置き、後は私の前にはオレンジジュース、有野さんの前にはお銚子を置いて去って行った。

「……私、食べれませんよ」

「食えるだけ食えばいい」

 お銚子を傾けながら、有野さんはあっさりと言った。

「残すのは勿体ないですよ」

「なら食えば?」

 ……ええと。

 腹が立って来た。

 割り箸を勢いよく割ると、お茶碗を片手にパクパクと食べ始める。

「……腹空いてたのか?」

 うるさい。

 とにかく目の前のものをなくしてから、話が終わったらさっさと帰る。

 そうする事に決めたんですっ!!

 そうやって無理にでも食べ進め、あらかた片付いた後。

「じゃ、少し話すか」

 オレンジジュースを片手に有野さんを見た。

「まず聞きたいことがあるんだ」

「何ですか」

 有野さんは少しだけ無言になった後お銚子を傾け、それをコトリとテーブルに置いた。

「朝はともかく、夜の事は覚えてるか?」

 まったく。

 カラオケで、誰かが昔のアニメソングを熱唱していた記憶までしかありません。

 有野さんは私の表情を見ながら、言葉を重ねて行く。

「俺に抱き着いて来たのは?」

 ん?

「帰りたくないって駄々をこねたのは?」

 はい?

「いきなりタクシーで、服を脱ぎそうになったのは?」

 ……そこまでしたの?

「……覚えてない訳だな」

 有野さんは溜め息をついて、お猪口のお酒を飲み干した。
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