WORKER HOLiC
「たった一夜の出来事でしょう? それだけで、どうにかなるとも思えません」

「だが、その一夜で起こる間違いもある」

 ……間違い。

 そんな言い方って少し寂しい。

 でも、この人には〝間違い〟なんだろうな。

「そうだった場合は責任を負う。結婚とか、そういった形になるが……」

 ……責任を〝負う〟訳ですか。

 もし、そうなった場合。

 絶対にこの人には言わない。

 責任を負われて一緒になった所で、生まれて来た子に彼の負い目を背負わせるのは嫌だ。

 もし、そうなったら……の場合だけれどね。

「お話はそれで終わりですか?」

 我ながら、冷静な声に乾杯だわ。

 少しだけ驚いた顔の有野さんに、小首を傾げてみせる。

「でしたら、ハッキリと解るまで普通の上司と部下の関係でいましょう」

 ニッコリと微笑むと、有野さんは警戒するような顔をした。

「それが君の望みか?」

「もちろん」

 誰かを好きでいる男と結婚なんて、真っ平ごめんだわ。

 結婚なんて、夢物語。

 そんな事は望んでなんかいない。

「じゃ、明日も仕事ですし、帰ります」

 お財布を出した所で、有野さんに無言で首を振られる。

「ここはいい。僕が無理に付き合ってもらったから」

 ……奢られる言われはないけれど。

 でも、ここで騒いでも、長引かせるだけよね。

「ごちそうさまです」

「うん。じゃ、明日」

 お座敷を出ようとして、

「あ。加倉井さん」

「はい?」

 立ち止まった私に、有野さんはにこやかに微笑んだ。

「お酒。飲まない方がいいよ?」

 ……肝に命じておきましょう。

 軽く睨んで、お店を後にした。



 カラカラと音がなる戸を開けると、生温い風が肌を通り過ぎる。

 裏道に近い通りは、だいぶ酔った人が増えている。

 すっかり飲みに行く気分でもなくなっていて、そのままタクシーを拾うとマンションに帰った。

 誰もいないマンションの鍵を開け、後ろ手にドアを閉めると、そのままズルズルと座り込む。

 ええと……

 生理の予定を聞いてたわよね?

 うん。

 間違いなく聞いていたわ。

 確か間違いなければ予定は来週よ。

 もちろん私は不順ではないから、ちゃんと来るはず。

 と言うか、来てちょうだい!

 じゃないとね……!!

 頭を抱えて小さく唸った。

 もう、雪と一緒の時以外は飲まないわ!

 絶対に飲まないんだからっ!!














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