WORKER HOLiC
HOLiC 2

:Ⅰ

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「加倉井さんの携帯持って、有野さんが追っかけて行ったでしょ? あのあと、何かなかったの?」

 次の日。

 興味津々の澤井さんに懐かれながら、目を細めて溜め息をついた。

 返してもらい忘れたスマホは、出社したらデスクの上にあった。

 朝一で有野さんが会議室に向かうところを見たから、たぶんこっそり返してくれたんだろう。

「知りませんよ。私は真っすぐ帰りましたからね!」

 嘘だけど、半分は本当。

「本当~? な~んか怪しいなぁ」

 まったく、この人は。

「何ですか。根拠はなんですか、根拠は」

 言えるものなら言ってみて下さいよ。

 澤井さんを振り返ると、彼女は指を振りつつ、今はデスクに座っている有野さんを指差した。

「まず、有野さんが朝の挨拶に来なかったのが一点」

 はい?

「気付いてない? 朝はまず、グラフィックスの所に来て、加倉井さんに挨拶してから席につくのよ?」

 はぁあ?

「それから、今日の指示」

「今日の指示?」

 首を傾げると、澤井さんは得意げに頷いてくれた。

「いつもなら、有野さんがこっちまで出向いてくれるのに、今日はグラフィックス・チーフを呼んで指示してたわ!」

 ……だからどうだって言うのよ。

「つまり、有野さんは明らかに加倉井さんを避けているわ」

 思いきり溜め息をついた。

「……いいですか、澤井さん」

「何?」

「私の席は見ての通り、一番入口に近い位置にあります」

 入口を入って目の前、一番角の席が私の席。

「うん。ま、そうね」

「故に、まずドアを開けて私がいれば挨拶するのが当然……と言うのが一点」

 ちなみに今日は、ちょっと席を外している間に有野さんはデスクに着いていたし。

「それから、有野さんのデスクを見るからに書類の山。ですから、チーフを呼んだのはたまたまでしょう、と言うのが私の見解です」

 私の意見に後輩たちが頷き、賛成をしてくれた。

「と、言う訳ですから、仕事しましょう、仕事」

 くるりと椅子を回転させ、パソコンに向き直る。

 方向的には有野さんの方を見る形だけれど、モニターがあって彼の姿までは見えなくなる。

 差し戻されたやり直しと、新しく指示されたCGをやりながら、足を組みつつデスクの下でサンダルを脱いだ。
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