WORKER HOLiC
 有野さんはそう呟くと、Tシャツとハーフパンツを身につけて振り返った。

「服はそっちの椅子の上、多分下着は床の上。とりあえず朝飯を用意しておくから」

 そう言って部屋を出て行った。

「……………」

 もそもそと上掛けを外すと、あられもない姿。

 ……これは、もしかしなくても、もしかする訳よね?

 床に落ちている下着を取り、ペタリとベッドに座った。

 確か、昨日は部の人達と飲みに行ったのよ。

 最近、雪と飲みに行ってないから、久しぶりにはしゃいだ記憶はある。

 ボーリングに行って、居酒屋に行って、屋台に行って、カラオケに……

「うわぁ……記憶がない」

 頭を抱えると、隣の部屋で何かが落ちる音と、それから低い慌てた声が聞こえた。

「……………」

 こんな事してられない。

 さっさと服を着よう。

 下着をさっと身につけて、椅子の上にあったスーツを着た。

 ……お化粧がしたい。

 でも、いまさらかも知れない。

 バックを捜して見つけると、ポーチから手鏡を取り出す。

 右目がぼやける……

 よく見てみるとコンタクトが片方ない。

 ……最悪。

 やっぱり、1Dayコンタクトにするべきかしら……

「着替え終わった?」

 突然ドアが開いて、有野さんが顔を出した。

「い、いいいえ!」

「……明らかに着替え終わってる」

 言われて、頬が熱くなった。

 着替え終わっていますとも……っ!!

「簡単なモノだから、もう出来たよ」

 そう言うなり、またドアは閉まる。

「……………」

 ポリポリと頭をかいた。

 ……どうも調子の狂う人だ。

 だいたい貴方は私の上司で、私は貴方の部下ですよね?

 普通は少なからず言い訳するとか、動揺するとか……

 そういう感じにはならないものなんでしょうか?

 ぼんやりと考えながら無事だったコンタクトを外して、予備の家用の眼鏡をかける。

 飄々として、普段通りで……

 そういう男なら、見たことはある。

 女慣れして、どうとも思ってない感じ。

 ……なら。
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