WORKER HOLiC
 ヒラヒラと手を振り去っていくお姉様を眺め、私は呆然とする。

 ……何で、有野さんはこの時間に彼女がサボっているのを知っているの?

 だって急な会議とかがない限り、お昼過ぎにはオフィス内にいるわよ?

 そう思って、あっと小さく叫んだ。

 そういえば有野さんって、いつも窓の外を眺めているわよね?

 いや、待って。

 うちのオフィスがあるのは地上15階。

 こんな公園の出来事なんて豆粒じゃないの?

 どこかの国の人じゃあるまいし、視力が4・0なんて事もないだろうし、もちろん双眼鏡とか使うなら見えて不思議じゃないけれど……

 でも、そんなものを使ってたらオフィス内で噂になるわよ。

 と、言うか、オフィスで双眼鏡なんて使って外を眺めていたら、ただの変人じゃないの。

 有野さんって……どういう人なの?

 うわぁ。

 知りたい。

 でも知りたくない!!

 オフィスに戻りながら葛藤して、仕事をしながら悩み抜く。

 個人データーを調べるなら、あのお姉様に聞くのが早道だけど。

 あのお姉様は、逆に私が調べていたと噂にするような所があるから怖いし……

 そんな感じで仕事をしていたものだから、もちろんはかどる訳もなく。

 気が付けばオフィスに残っていたのはジェネラルマネージャーと有野さんだけになっていた。






「珍しいね。季節の変わり目でもないのに加倉井さんが残業なんて」

 うちの部はテレビのコマーシャルの仕事が多いから、季節の変わり目になると死ぬほど忙しい。

 GMの言葉に苦笑しつつ、パソコンの電源を落として片付けを始めた。

「ちょっと、上手くいかなくて……」

 言いかけるた時、有野さんがひょいと見ていた書類から顔を上げる。

「今日、彼女には変更項目の差し替えを全部任せましたから」

 ……はい?

「ああ。なるほどね。じゃ、私は先に帰るが……」

「はい。鍵は保安に預けておきますよ」

「よろしくな」

「お疲れ様です~」

 有野さんはモニターに視線を移し、GMはさくさくと帰って行った。
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