WORKER HOLiC
 とにかく近くのベンチに座らせてもらって息をついた。

 ……なんて人なの。

「……有野さんて、体力があるんですね」

「うん。悪いけど」

 ニコニコ言われても、全然そんな風には聞こえませんが。

「だけど俺も驚いた。あんなにしっかりしてたのに覚えてないっての」

「……しっかりして見えましたか」

 有野さんは隣に座り、寄り掛かると腕を組んだ。

「多少は酔ってるのかな? とは思ったけど……今よりしっかり歩いていたし、何よりキチンと話していた。別に話が飛ぶって事もなかったし……」

「そうですか」

 ……だけど3回?

 たった一晩で3回?

「あ。ちなみに早い訳じゃないから」

 早い訳じゃ……

 ……ん?

「何を突然言うんですか─!!」

 慌てて飛び上がると、有野さんはニヤニヤと私を見ていた。

「いや。加倉井さんて冷静だと話がしずらくて」

「だだだからって……」

「なかなか可愛いかったよ?」

「そんな問題じゃないでしょ!!」

「その通り。だからちゃんと話そうって言っているのに、自分の言いたい事ばかりでさっさと逃げる君が悪い」

 ジロッと睨まれて口を閉ざした。

 つまり先日の話し合いも、貴方は納得しなかった……と。

 そういう訳ですね。

 確かに、あまり聞いてない様な気がしないでもないけど。

「妊娠してたら責任を負うんでしょ?」

「君は不本意そうだった」

「妊娠したら、結婚する訳ですよね?」

「納得いってないだろ」

「ある意味では誠実ですよね」

「不本意ながら」

「どっちですか」

 睨むと、有野さんは大きく溜め息をついて頭をガシガシと掻きむしる。

「正直言うと非常に不本意だよ。だけど無責任にもなりたくない」

「勝手な言い草ですね」

「確かにね」

 何でしょうね。

 何だか無意味に思えるのは。

 まぁ、ある意味では正直者過ぎる。

「私、別に異性とのお付き合いも、結婚も望んでませんから」

 そう呟いた瞬間、有野さんはガッと振り向いた。
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