WORKER HOLiC
「それは何故」

 何故って言われてもね?

「期待しても無意味じゃないですか」

「……どこが無意味なんだ?」

 だって、信じても無意味じゃない。

 信じても裏切られるなら、信じることに期待するのが無意味じゃない。

 それなら最初から期待しないで、あまり深く付き合わない方がいい。

 深く付き合うつもりがなければ、関わらなければそれでいい。

 そんな関係うまくいくはずないし、続けられるはずもない。

 なら、最初から関係を断ち切ってしまえばいい。

 だからあまり構わないで欲しい。

 それは私の我が儘なんだろうか?

「とにかく……望んでないんです」

 呟くと、有野さんはまた大きく溜め息をついた。

「あのさ。加倉井さん?」

「……何かご意見でも?」

 今回はちゃんと聞きましょう。

 じゃないと、貴方は納得しない。

「俺は有野忠士って名前」

「存じてます」

「俺は、君を完膚無きまで傷つけた、祐介って男性じゃありません」

 ひゅっと息を吸って、不機嫌そうな有野さんを見た。

「……どうして」

「あの夜ボロボロ涙零してわんわん泣かれれば、過去に何かあったんだろうって予想がつく」

 淡々と言われ、視線を反らした。

 ……そんな事まであったの?

 だからこの人が……祐介の名前を知っていたの?

「……何を言ってるかは解らなかったけれどね?」

 その言葉に、何となく安心する。

 少なくとも、全部は知られていないという事ね?

 知らず知らずのうちににぎりしめていた手の平を開く。

「……貴方は有野さんですよ」

「気丈だね」

 その言葉に思わず苦笑。

 冷静・クール・気が強い。

 その言葉ならいつも言われ慣れている。

「ありがとうございます」

「……褒めてない」

 ……じゃあ何ですか。

 嫌味ですか?

 ……それだって慣れている。

 無言でいたら、有野さんは俯いてベンチの上に胡座をかいた。

「ひとつ約束して欲しいんだが」

 その言葉に身体ごと向き直ると、意外に静かな視線が返って来た。
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