WORKER HOLiC
 職場にいる時の様に、ピシリとした表情を作りドアを開けた。

「落ち着いたか?」

 ちょうどトーストの乗ったお皿を運ぶ有野さんに鉢合わせした。

 にこやかに微笑んで見せる。

「はい。申し訳ありません」

「別に謝ることじゃないだろ」

 ちらっと私を見て、有野さんはお皿を差し出してくる。

「運ぶの手伝って」

「……はい」

 マイペースな……

 いや、このペースに乗せられちゃダメ。

 首を振っていたら、有野さんはにこやかに振り返った。

「加倉井さんの好みなんて知らないから、適当に作ったけどパンでいい?」

 どちらかと言うと、このまま退散したいわね。

 心の中で呟いて、にこやかに頷いた。

「大丈夫です」

「じゃ、そこに座って」

 言われた通りに、示されたソファーに腰を下ろす。

「コーヒーはインスタントで、砂糖はそっち」

 言われて、角砂糖の入ったシュガーポットを見つけた。

 それから、ふっとテーブルに並べられたモノを眺める。

 スクランブルエッグ……にしては目玉焼きに近いタマゴ料理と、黒焦げのウィンナー……

 家事はダメらしい。

「今、勝ち誇ったな?」

 じっと有野さんに見つめられ、慌ててシュガーポットを手に取った。

「そんな事はありません」

「しょうがない。家事が苦手なのは事実だから」

 ふっとはにかんで、それから私の手元を見て眉を上げる。

「……加倉井さん?」

「はい」

「甘党?」

 自分の手元を見て無言になった。

 ……砂糖5つは多い?

「昨日も焼酎飲んでるな、と思ったら、すぐにカクテルやらラムやら飲んでたね」

「……………」

 昨日の話は……

「飯食ってからにしよう」

 促されて頷いた。

 それから黙々と塩辛いウィンナーなどを食べ、コーヒーで流し込んだ後で肩を竦める。

「……ご馳走様です」

「お粗末様です」

 お互い頭を下げ、顔を上げた時に目が合った。
< 3 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop