WORKER HOLiC

:Ⅲ

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 毎日が疲れる。

 この仕事に就くことは、自分の夢だったし希望だった。

 世の中、夢だった仕事に就ける人なんて言うのはそうそういない。

 疲れるなんて言ったら、罰が当たるのかも知れないわ。

 ただ……

 ただね……

「加倉井さん。ここの構図、もうちょっと右にしたらどう思う?」

 有野さんはパソコンで画像を動かしながら、私をちらっと見上げた。

「それだと全体が左寄りになって、なんの宣伝か解りづらいのでは?」

 今回は〝リゾート・ホテル〟の宣伝……

 これって、確か雪が出張に行ったホテルのコマーシャルじゃないかな?

 そのテレビコマーシャルの製作に、うちの部署から何人かチームを組まされたんだけれど……

「海野はどう思う?」

「あ~……加倉井の意見に賛成。それじゃホテル自体が後ろにまわっちゃうし」

 少人数の会議室を借り切り、これまた六人編成という異例の少なさで挑む大仕事……

 まわりは百戦練磨の先輩たち。

 ……何故、単なるグラフィックスの私がここにいるの?

 相当に気疲れするんですが。

「でもなぁ……これじゃどこにでもあるスパの宣伝と変わりないよな?」

 ブツブツ言う有野さんに、先輩たちは苦笑した。

「宇津木の仕事に手を出すからですよ」

「まぁ、宇津木くんなら却下してくるでしょうねぇ」

「あいつ、うるさいから」

 口々に文句を言う先輩たち。

 でも皆、仕方がないなぁ……とでも言いそうな雰囲気だったりする。

「いや。最初は面白そうだと思ったんだけどね」

 飄々と言う有野さんは、ここで再度私を見る。

「ここの写真、君の同期が撮ったらしいんだけど。君ならどう使う?」

 パラパラと取り出したのは、データーでもなんでもない、プリントされた何十枚もの写真。

 ……これを、雪が撮ったの?

「……映像コマーシャルに写真を使うんですか?」

 写真屋やカメラの宣伝なら、それも納得なんだけれど。

「なんか面白い案はない?」

 あったら、単なるグラフィックデザイナーなんてやってませんから。

 私に決める側にまわれと言うのか、この人は……
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