WORKER HOLiC
「本当に、君は甘党なんだね」

「………っ!!」

 慌てて振り返って、そこに笑っている有野さんを見つける。

 いつの間に……っ!!

「1ホール奢るって言ったら、喜ばれるかな?」

 ……いえ。

「現実問題として、ケーキをホールごと食べたら、気持ち悪くて大変です」

「うん。だろうね。君の事だからそんなコメントが返ってくると思った」

 ならば言わなければいいのに。

 解っていながら言うなんて、ある意味では確信犯よね。

 でも……

「怒らないんですね」

 別段、表情も変わらない有野さんを眺めた。

「ん?」

「普通の方なら嫌な顔をます」

「君の言動?」

「はい」

 有野さんはポリポリと頭をかき、ゆるゆると歩きだしながら呟いた。

「解っていながら、その答えに怒る奴は馬鹿じゃないか?」

 ……いや、そうなんですけれど。

「有野さんて、マゾですか」

「え~? どちらかと言うとサドって言われるよ~?」

 まったりのんびり答えられて、思わず吹き出した。

 サ、サドですか。

 そうですか。

 でも普通は答えませんよ。

 無言になりながらオフィスに戻り、ワクワク顔の澤井さんに捕まった。

「ねぇねぇ! 有野さんと組んでコマーシャルを作るの?」

 ……何故そんなに興味津々なのかしら。

「コマーシャルは私、携わった事があまりないんですよね」

「ああ、そうなの。じゃなくて有野さんと組むんでしょう?」

「チームでやるんですよ」

 まさか二人でコマーシャルなんて作れないし。

「どんな事をやるのか、全然解らないんですよね」

 ポスターとか、そちら方面なら経験はあるんだけれど。

「グラフィックスはほとんど画像処理かしら。前にチーフとやった事があるけど、そんな感じだったわよ」

「そんな感じなんですか」

 と、すると映像が来るまでは、本当に何をしていいか解らないわ。

 席について、持っていた書類をファイリングしながら溜め息をつく。

 ……本当に疲れる。
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