WORKER HOLiC
 ……有野さんって、結構ドジなのかも知れないわね。

 この部屋に最初にいた日も何か落としていた気がするし。

 掃除機の在りかを聞いてキッチンを片付けてから、勝手に新しいグラスに麦茶を注いでリビングに戻る。

「救急箱とかありますか?」

「あー……サイドボードの引き出しに」

「勝手にいじりますよ?」

 罰の悪そうな有野さんに苦笑して、サイドボードから消毒液や包帯などを取り出した。

「痛かったら歯を食いしばって下さいね」

「……ね。それって普通は痛かったら痛いって言ってください……とか言わない?」

「いい大人が泣き言を言わない」

「……はい」

 とりあえず有野さんの隣に座って応急処置をした。

「利き腕じゃなくて良かったですね」

 包帯の端をハサミで切って、結び付けながら呟く。

 確か、有野さんの利き腕って左手だったと思ったし。

 怪我をしたのは右手だから。

「うん。でも手慣れてるね」

 それはもちろん。

「私の友人で、真っ正面から電柱にぶつかる様な子がいますから」

「……ふぅん? 友人で?」

 ……それが何か?

 不思議に思って顔を上げたのと、引き寄せられて唇が塞がれたのは同時だった。

「……ふぅっ!? んっ!!」

 目を見開いた先に、有野さん。

 ちょっ……

 ちょっとちょっと!?

「有野さ……!!」

 離れようとして身を引いたのと、背中を支えられて押し倒されたのも同時だった。

「………っ!!」

 待って。

 いや、待ってくれないわよね。

 でも……

 でもでも……!!

「有野さん!!」

 力の限り有野さんの胸を押し、転がる様にして床にへたり込む。

「いったい何がしたいんですかっ!!」

 叫ぶと、有野さんはソファーに横たわったままで頭をかいた。

「うん。いろいろと?」

 ぶっ叩いてしまおうかしら。

 それとも、蹴飛ばそうかしら。

 物騒な事を考えていたら、有野さんが片手を上げた。

「あ~……悪い。こういう事を考えていた訳ではないんだ」

 じゃ、何だと言うつもりですか。

「可愛かったから、つい」

 言われてポカンとした。
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