WORKER HOLiC
 今……

 何だか今、幻聴が聞こえましたか?

 たぶん幻聴、きっと聞き間違え。

「あー……きっかけがきっかけだったから、あまり強くも言えないんだけどさ」

 有野さんは包帯の結び目を弄りながら、微かに苦笑中。

「加倉井っていつも真面目だな……とか、礼儀正しいな……って感じにしか思ってなかったんだけど」

 ふぃっと視線を上げられて、ドキリとした。

 予想以上に真剣な眼と合ってしまって、眼がそらせない。

「この子は息抜きしてるのかな、とか、いつも真顔で息詰まりしそう……とか、そうも思ってた」

 ……とても酷い言い様ですね。

「だけど……」

 有野さんはまたモジモジと、結び目を弄りだす。

 状況が違えば、可愛いなぁ……って、私も思えるんだけど。

「あの夜に、全部が払拭されたんだ」

「…………」

 ……何が?

「いきなりここに着くなり泣き出すし、行かないでとか言って抱きついてくるし…」

「……っ!?」

 だ……抱きつくはこないだ聞いたけど、行かないで?

 行かないで……なんて、私が!?

 有野さんは片手を振り、小さく溜め息をつく。

「あ、寂しがりなんだな……って思ったらもうダメで。実は甘えん坊な面まで見えてくると、どうしようもなかった」

 何が。

 だから、何がですっ!

 有野さんは私を真っ正面に見つつフッと笑った。

「俺に火を付けたのは君だからね?」

 はい?

「後は、まぁ、やっぱり興味のある女を目の前にして黙ってるのも何だし、見た目はしっかりしてたから手を出した訳」

 ……っ!!

 だ……出さないでよ!!

「抵抗もしなかったし、ま、接点が接点だから、既成事実作ってしまえ、とも思ったんだけどさ」

「は、はぁ……」

「1回目は夢中で忘れちゃってて、2回目は妊娠させるのもいいかな、とか思って。3回目は念入りにしようと考えて……」

 淡々と指折り数えられて、唖然とする。

 や……

 あの……

 だから?

 だから、一晩で3か……

「キャ────!! 何を淡々と無茶苦茶な事を言ってるのよ!!」

「まぁ、無茶苦茶だよね」

 ケロッと言われて、気が遠くなりそうな気がした。
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