WORKER HOLiC
「正確には営業の川瀬さんと朝比奈さんが、ホテルで接待した話でしょう?」

 そう言うと、後ろの二人は黙り込んで私を見た。

「でも、営業の人がそういう場面を見たって噂が……」

 そう反論する二人に、私はくるりと振り返って腕を組む。

「ちなみに、その接待には新人さんの三野さんが同行してるはずよ? ちゃんと調べたの?」

「……あの。調べるって、どうやって?」

 キョトンとする後輩に微笑んだ。

「いろいろとよ」

 1番手っ取り早いのは、営業の誰かさんに電話をする事だけど。

「さぁすが、社内ナンバー2の情報屋ね」

 澤井さんにからかわれて苦笑する。

「情報屋じゃないですって」

「ご謙遜を」

 ヒラヒラと手を振られながら、肩を竦めた。

 ……だって、暇なんだもの。

 それに、噂なんて一番信用置けないじゃない。

 なら、気になる事は自分で調べるしかないじゃない。

 そんな事をしているうちに、気がつけば社内1・2を争う情報通になっていたんだけれど。

 私がその情報をもとに、何かするって訳ではないし……

 やったとしても、今みたいに噂の訂正をするくらい。

 要は自己満足。

「……じゃ、じゃあ、先輩。有野マネージャーに恋人がいるとか、そういうのは解りますか?」

 顔を赤らめる後輩に、私と澤井さんは顔を見合わせ、その後輩を眺める。

「やだ。サトミ。あんなオジサンが好みなの?」

 ……有野さん、貴方、オジサン呼ばわりされてますよ?

 確かに、専学卒業したてのお嬢さん方にしてみればオジサンかもね。

 でも真っ赤な後輩に、ニッコリと微笑んだ。

「有野 忠士、32歳、誕生日は来月の14日。グラフィックデザイナーを経て、現在はもっぱらディレクターにまわっている。結婚歴はなし、特定の恋人の話もなし」

 呟いて、ちょっとだけ眉を下げた。

「これ以上は、社内1の情報通に聞いてちょうだい?」

「え~!! なんでですかぁ!?」

 身を乗り出す後輩に、椅子に寄り掛かる形で退いた。

「なんでって……。男性個人については、私が興味ないからよ」

 そう言った瞬間、不満そうにしていた後輩の顔が、私の頭上を見て、さっと青ざめた。
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