恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
「どうぞ。伊佐木法律事務所の藤村千草です」
「あ、知ってます、伊佐木さんの事務所。3階の、ですよね」
「はい。越川さんはたしか5階の、でしたっけ?」
「そうです。エムズコーポレーションの社員です」
越川さんが頷き返す。なんだかぎこちない会話がこそばゆい。
「あ、それで、よかったらこれどうぞ」
そういって越川さんは手に持っていたビニール袋からカラフルな紙を取り出した。
「………短冊ですか?」
「どれでもお好きなものをどうぞ。うちのオフィスだと七夕は毎年の恒例行事なんですよ」
差し出された短冊はスタンダードな白だけじゃなく、ピンクや黄色やブルーがあって、形も長方形型からハートや星型までいろいろでとても目に賑やかだ。
「これ、越川さんが作ったんですか?」
「あ、いや。これ百均で売ってるんですよ、こういう七夕の飾りつけキットが。こっちの色紙を細く切ってあるのは輪っか飾りで、これから自分が糊塗ってつなげていかなきゃいけないんです。そういう細かい作業って性格出るから、大ざっぱな自分はきれいに作れるか結構プレッシャーなんですよ」
「………なんだかたのしそうですね」
大きな男の人がデスクで一生懸命ちまちま工作作業してる姿を想像しただけでちょっとたのしい。くすっと笑ってしまうと、越川さんはちょっとはずかしそうに弁解してくる。
「ウチ、外国人率高い職場なんですよ。さっきいた赤いジャケット着てたのもウチの女子社員で、日系アメリカ人で。ボスが日本の文化的なものに触れさせてやりたいっていって、日本でメジャーな行事はすべてやろうってことになってるんです。たしか七夕の本場は日本じゃなくて中国ですけど」
「クリスマスにも何かイベントされてましたよね?私そのとき、帰りがけにエントランスでサンタさんにお菓子いただいたんですよ、ジンジャーマンのクッキー」
「あ、それ俺です」
彼の声が、心なしか半トーン高くなった。