恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
「……背の高いサンタさんだったから、もしかしてって思って。やっぱり越川さんだったんだ。クッキー、あの日家に帰ってからちゃんといただきました。おいしかったです」
「よかったです。あれ、自分の行きつけの洋菓子店で売ってるヤツで、選んだ俺が言うのもなんですけど、かなりおすすめなんです。ちょっと恥ずかしい思いしてサンタやった甲斐ありました。サンタ役、毎年新人に割り当てられるんですよ」
「新人?」
「自分、転職組で。でウチの会社は結婚披露宴とか法人さん向けにパーティーグッズの販売、貸出、プロデュースをしていて、サンタのコスプレもイベント好きのボスの差し金なんですよ」
「そうだったんですか。ほんと楽しそうなオフィスですね」
お世辞じゃなくて。私の職場はそういうのとは無縁だから、話を聞いただけでも和気藹々としたアットホームな雰囲気が伝わってくるオフィスがちょっとうらやましかった。
(越川さん、転職組だから見かけるようになったのがここ半年くらいなんだ)
そんなことを考えているうちにエレベーターが3階にとまる。
「あの」
私が会釈をして降りようとすると、越川さんが引き留めてきた。
「今日これから自分、七夕の飾り付けするところで、来月までずっとうちのオフィスに笹飾るんです。だから短冊にお願い事書けたら、藤村さんの分もちゃんとコレに飾っておくんで、よかったら声、かけてください。俺が責任持ってお預かりして飾らせてもらいます。結構願いが叶う率高いって評判なんですよ」
「じゃあぜひお願いします。短冊、書かせてもらいますね」
あたしは手の中にあるピンクの短冊を左右に振りながら頷いて、それからこの前伝えられなかった言葉を添える。
「どうもありがとうございます、越川さん」
疲れているようには見えないように、笑顔を心がける。口角を上げて、でも作りすぎないように。鏡がないからわからないけど、ちゃんと自然な笑みの形になっていたのか、閉まり始めるドアの向こうで越川さんの顔もやわらかくほどけた。
「あの、藤村さん。じゃあ、また今度っ-----------」
閉じきる前に、越川さんは片手を上げてなにかを言いかけた。でも「今度」の続きの言葉は閉まる扉に遮られてしまった。すこしだけ残念だけれど、こんなに心地の良い名残り惜しさって、なかなかない。
「よし。………がんばろっ」
ちょっと言葉を交わしただけなのに、なにかあたたかい気持ちがチャージされて、私は貰ったばかりのまだ何も書いていない短冊を握り締めて事務所に向かった。