恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
「短冊、ですか」
「藤村さんのためにとっておきの場所とっといてあるんですよ。笹のてっぺんに近い場所に飾るほど願いが叶いやすいって言うから、俺でも脚立に乗らないと手が届かないいちばん上の一等地、ばっちり押さえておきました」
にこにこと邪気のない顔で言ってくれる越川さんに、私は自分の短冊を思い返して恥ずかしくなってくる。
短冊は書くには書いた。実はいつでも渡せるように、この一週間、ずっと通勤バッグのいちばん取り出しやすい外ポケットのところにしまってあった。でもいつも渡すのを躊躇ってしまっていた。
「藤村さんはお願い事、熟考中ですか?」
私が頷くでも否定するでもなく曖昧に笑うと、越川さんは子供のように声を弾ませて言う。
「本当にひとつだけ願いが叶うなら、お願いしたいことなんていくらでも思い付きますよね。朝はもっと遅くまで寝てたいとか、給料と景気がよくなるといいなとか、仕事もプライベートももっと充実しますようにとか、旅行に行きたいとか、うまいもん食いたいとかもうちょっと広い部屋に住みたいとか」
「………越川さんはなんて書いたんですか?」
突然振られた話に、越川さんは虚を突かれたように目を丸くする。まだまだ知り合ったばかりの女に自分の望みを聞かれるなんて、あまり気持ちのいいことではないかもしれない。
「俺の願い事ですか?」
「あ、いえ。やっぱいいです、気にしないでください。こういうの、人に聞いちゃダメですよね。……えっと、私実はもう短冊書きました。………書くには書いたんですけど……」
自分が書いたお願い事を思い出したら、やっぱり短冊を取り出そうとしてバッグに突っ込んだ手が止まってしまう。なんであんなこと書いてしまったのだろうと後悔していると、そんな私を見て越川さんが苦笑した。
「大丈夫大丈夫、勝手に見たりしませんから。書けているなら預からせてください」
「ほんとうですか?………ほんとうに越川さん、見ませんか?」
「ほんとうです」