恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~

越川さんは笑顔で見ないと約束してくれるけど、それでもすこし躊躇ってから、私はピンクの短冊を裏返しに越川さんに差し出した。



『発泡酒よりもビールが飲みたい ちぐさ』



私の短冊には、そんな言葉と一緒に泡のたっぷり乗っかったビールジョッキのイラストが描いてある。


短冊を頂いた翌朝、通勤中に話し掛けてきてくれた越川さんと喋っていると、越川さんの同僚のランディさんというラテン系の方がやってきて、三人で話しながらビルまで歩いた。そのときランディさんは短冊に『ボクは出来るだけたくさんのステキなニホンの女の子たちと知り合って、その全員と付き合いたいって書いたネ』と陽気にウィンクしながら言っていた。

ほんとうは神様に縋ってでもお願いしたいことはたくさんあったけれど、『早く転職先がみつかりますように』とか『妹の奈美が今年こそ単位落とさず卒業出来ますように』とか『お父さんの退院日が早く決まりますように』と書くのはあまりに重すぎというか必死すぎる。

そんな堅苦しいお願いを大真面目に書くより、越川さんのたのしそうな職場の雰囲気にマッチしたお願いごとを書いたほうがいいかなって思って『ビール飲みたい』だなんて書いたわけなんだけど。

「…………ビールって、しかもジョッキって……」

ピンクの短冊を受け取った途端、越川さんがぷっと噴き出した。そしてそのまま声も出せないくらいに肩を震わせる。

「越川さんっ!?何普通に見てるんですかっ」

「いいなぁ、藤村さん。上にマッチを置いても潰れそうにない、この厚みがあってきめ細やかそうな見事な泡。藤村さんはビールをよく分かってる。泡なし派って人もいますけど、俺は断然クリーミーな泡が立ってて飲み終わった後エンジェルリングが残るビールの方が好きですよ」

「もう、勝手に見ないって言ったのに……ひどい」


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