恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
ものすごく恥ずかしくなって越川さんをにらみつけるけれど、越川さんは私の短冊に目を落としたままどこかうれしそうに言った。
「いやいやいや。いいじゃないですか、俺も発泡酒より第三のビールより、断然普通のビールの方が好きです。特にプレミアム系のゴールド缶はうまくてどこメーカーのも最高ですよね。……法律事務所に勤めていらっしゃる方ってもっと近寄りがたいお堅いイメージがあったんですけど、これ見て俺の中でめちゃくちゃ藤村さんの好感度上がりましたよ。うん、いいな。すっごくいい」
「からかわないでください。……やっぱり返してください。お目汚しですよから」
そういって取り返そうとすると、それより先に越川さんはワイシャツの胸ポケットに短冊を入れてしまう。
「いいお願いごとじゃないですか。今の季節、キンキンに冷えたビール一杯が明日の活力になりますからね。折角ですから藤村さんの願い事が聞き届けられるように、俺が責任もってうちのオフィスに飾らせてもらいますよ」
にっこりとすこし強気に言い切られてしまって、私は渋々取り返すことを諦めてエレベーターに乗り込む。
「えっと、藤村さん」
返事をしなかったのはばつが悪かったからだ。でも越川さんは私に話し掛ける。
「………お気を悪くしたのならすみません。で、勝手に藤村さんのお願い事を見たお詫びと言うか、償いをさせてもらいたいんですが……」
すこしだけ迷ったように言葉を濁した後、越川さんは背筋をぐっと伸ばして言ってきた。
「それでその。もしよかったら、さっそくビール飲みたいっていう藤村さんのこのお願い事、叶えに行きませんか?」
(…………え?)