恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~

どういう意図の言葉なのか彼に確かめるより先に、3階に着いて扉が開いた。私は驚いて目を見開いて越川さんの顔を見ているうちに、廊下の奥から足音が近付いてくる。


「お、千草ちゃん。おはよう」


やってきたのはうちの事務所の所長の伊佐木先生だ。先生は私を見て好々爺のような相好を崩すと、手に持っていた封書を私に差し向けてくる。


「よかったよかった。今日はまだ友里ちゃんも来てなくてね。悪いけどちょっとお使い、行って来てくれないか?ちょっと急ぎの案件があってね」


私が「はい」と頷きながらエレベーターを降りると背後で扉の閉まる気配がした。思わず振り返ると、閉じていくエレベーターの中で越川さんがぺこっとお辞儀した。どこか落胆したように眉尻を下げて苦笑していた。


(今のって、もしかして飲みに誘ってくれようとしていたの………?)


でもなんで私なんだろう。……ただ単にビール好き同士って分かったから声を掛けてくれただけなんだろう。そう思って心を鎮めようとしたけれど、不意に高鳴ってしまった胸はその日1日じゅう治まってはくれなかった。




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