恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~

1.半袖の彼


(1)半袖の彼


(やっぱり半袖が似合う人だな)

私の少し前を歩いているその人を、こっそりと盗み見て思う。

毎朝駅から職場までの道で見かける彼は、早くも5月の初めからクールビズスタイルになっていて、今日も青色の細いストライプ入った半袖のワイシャツとわずかに焼け始めた健康的な腕の色が目にさわやかだ。

晴れた日でも雨の日でも、何かスポーツをしていた経験をうかがわせる素早く軽快な足取りで歩いていて、ワイシャツの襟に掛からないくらいさっぱりと短く切り揃えられた髪は風を切って涼しげだった。

顔立ちは正直、特別イケメンというわけではなくて、むしろ地味な部類かもしれない。でもどことなく人懐こそうな雰囲気があって、不思議と安心感や好感を抱かせるやさしげな目鼻立ちをしていた。たぶん人柄が顔に出るタイプの人なんだろう。

彼は半年くらい前から通勤中に見掛けるようになった人だ。勤め先がどうやら私の職場があるのと同じオフィスビルに入っているらしく、通勤時刻が重なるため、朝は大抵彼の後姿をすこし離れた場所から眺めるようになる。

つまらないパンツスーツに同じ色のパンプスに身を包み、決して軽いとは言えない足取りで職場へ向かう私には、背筋をまっすぐにして溌剌とした表情で仕事に向かう彼の姿は見ているだけで心地よかった。


名前は知らない。歳も職種も知らない。
でもそれでいい。それがいい。ただ毎朝そっと見ているだけで。


そんなことを思いながら歩き続けると、今日もビルのエレベーターの前でその背中に追いついた。彼の半歩後ろに並びながら「おはようございます」と挨拶をする。と、彼はこちらに振り向いて子供のように白い歯を見せて言った。


「おはようございます」


その笑顔を見てほっとする。


(よかった。元気そう)



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