恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~

「藤村さん。よかったら今日、飲みに行きませんか」


とっさのことで返事が出来ずにいると、越川さんは言い直す。


「いや、行ってください、行きましょう。ぱあっと飲みましょうよ。それで憐れなパシられまくりの下っ端独身野郎の愚痴でも聞いてやってください。頼みます、俺飲まないとやってけない気分なんで、どうぞ人助けだと思って付き合ってください。この通り!どうかお願いします!」

そういって両手を合わせると、越川さんはいたずらっぽく頭を下げて拝み倒すポーズになる。

「俺今日は早めに仕事終わりそうで、18時にはあがる予定なんです。だからそこのコーヒーショップ、窓際の席で藤村さん来るまで待ってます。待ってますから」


一方的に約束を取り付けると、越川さんは私が渡したフロランタン入りのちいさな袋の中身を覗いてにっこり笑った。


「うわ。ナッツたっぷりですごいうまそう。これは期待値高いですね、ありがとうございます。こっそりどころか同僚たちに見せつけて自慢しながら2コとも食ってやりますよ」


そう朗らかに言うと、越川さんは私の返事も聞かないまま片手を上げて颯爽と階段を下りて行ってしまった。でもその強引さに、沈みかかっていた私の心は救われる思いだった。




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