恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
5.願いが叶いますように
(5)願いが叶いますように
「やー。やっぱビールに限りますね」
まずは乾杯のあとで一杯目のビールに口を付けると、越川さんは朗らかに言う。私も頷いてもう一口ビールを飲もうとすると、越川さんが私の顔を見て笑った。
「藤村さん、泡のヒゲが出来てる」
いつものクセで舌で口の周りについた泡を舐めてしまってから行儀が悪いと気付いて慌てて紙ナプキンで口の周りを拭くと、その一連を見ていた越川さんが目を細めて呟いた。
「………藤村さん、かわいい」
異性を褒める言葉にしてはあまりにもさらりと言われてしまって、どう反応していいものか判断に窮していると越川さんはビールジョッキを掲げて言った。
「ねえ藤村さん、ビールのこの泡ってなんのためにあるか知ってます?」
私の心を動揺させておいて、越川さんは急にそんな全然関連のない話を振ってくる。
「泡、ですか?」
「そう、これってビールが空気に触れて風味や香りが飛ばないための蓋の役割してるそうですよ。それになめらかな泡が立つように注ぐと、泡の方に苦味とか炭酸が移って、ビールがほどよい炭酸の苦味の抜けたすっきりした飲み味になるそうです」
「……だから今日のビールはこんなにおいしいんですね」
たっぷりと濃密な泡が乗っている自分の手の中のビールジョッキを見ながら言うと、越川さんはうれしそうに頷く。
「それにやっぱ、ビール好きな人と飲むビールは同じ喜びを分かち合えるからやっぱり格別ですよね。俺の周りは残念ながらビールそんなに好きなヤツいないんですよ」
「それ、私もです。ジョッキで飲みたがるのなんて私くらいで、友だちはみんなお洒落なカクテルとかワインとかマッコリとかで」
「最近ビール党は肩身狭いですよね。やっぱ今日藤村さんと飲みに来れてラッキーだな、俺」
そういって越川さんは惚れ惚れするほど豪快にジョッキを飲み干した。