恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
19時半にどうにか仕事を片付けた私は、越川さんにダイニングバーに連れて来てもらっていた。
和洋折衷の創作料理を出すお店で、お酒を出す店にしては珍しく清潔感のある白木のインテリアがさわやかな明るい店内で、女性客が多めなとてもお洒落な場所だった。
頼んだお料理はまだ来ていないけれど、お通しに出されたホタルイカの瀬戸内レモンマリネというのが隠し味のゆず胡椒がアクセントになっていてとてもおいしく、他の料理にもきっとかなりレベルが高いんだろうなと期待出来た。
お料理が来るまで越川さんが職場のキャラの濃い同僚さんたちの話を面白おかしくきかせてくれて、追加のビールやお料理が届くと二人して分け合って食べた。
そうやって美味しい料理と穏やかな時間を過ごしてお腹が満たされてくると、アルコールが入っていつもより口調の砕けてきた越川さんがにこにこ笑いながらメニュー表を差し向けてきた。
「藤村さん。デザート食べよう」
メニュー表にはフォンダンショコラやマンゴープリン、黒蜜きなこ掛けの豆腐バニラアイスなどおいしそうなデザートが6種類も載っていた。私がどれを頼むか迷いに迷っていると、越川さんが「全部頼んじゃおう」と魅惑的なことを言い出だす。
「全部ですか?……頼みたいのはやまやまなんですけど、さすがに食べきれませんよ」
「じゃあシェアしよう。俺が全部頼みますから。半分こしましょう。うまいものは分け合って食べたほうがうまいですよ」
越川さんは、本当に全種のデザートをオーダーするとにこにことご機嫌に笑う。
「ほんとうに甘い物、お好きなんですね」
「うん、大好きです」
目を見てはっきりと告げられた言葉に、なぜか心が敏感に反応してしまう。それが顔に出てしまわないように、私はすこしだけビールが残っていた3杯目のジョッキを口元に引き寄せてぐっと飲み干す。