恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
べつに隠しておくほどの理由じゃないけれど、みっともない気がしてなかなか話す踏ん切りがつかない。越川さんはそんな私を無理に急かしたりはせずに言う。
「いや、話さなくてもいいんです。………けどそういうことって、同じ職場の人には言いづらいかなって思って。ほら、折角こうして飲みにきたんですし、よかったら俺のこと使ってやってくださいよ。イイことなんて言えませんけど、話聞くことくらいはばっちり任せてください」
ドンと来いとでも言うように越川さんが胸を張るから、私は彼の厚意にすこしだけ甘えさせてもらいたくなった。
「今の仕事は嫌いじゃないんです。所長のこと尊敬してるし、忙しいけど見合った対価はもらえていると思うし、いい職場なんだけど。……でも社内恋愛で、ちょっと失敗しちゃって」
「職場に元彼がいるってことですか」
わずかに低くなった越川さんの声に、気圧されしそうになる。
「……そうです。いるんです。大きな企業ならともかく、うちはちいさな事務所だから。毎日嫌でも顔合わせる場所にいるとなるとさすがに気まずくて………」
「それっていつも高そうなブリティッシュ系のスーツ着てる弁護士先生ですか?」
越川さんも何度かは見掛けたことがあるのかそう聞いてくる。ブリティッシュスーツがどういう形のスーツかなんてよくわからないけれど、いかにも高級そうで洒落たスーツを毎日来てくるのはうちの事務所でただ一人だ。
「……………たぶん、その人です」
私が頷くと、越川さんはもの言いたげに押し黙る。