恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
「まだ好き?」
黙々とデザートを取り分けていた手を止めると、6種のデザートが乗ったお皿を私に渡してくれながら越川さんが聞いてくる。興味本位という感じじゃなくて、まるでセラピストが問診しているような落ち着いた口調で聞いてきたから、私も落ち着いて言葉を返す。
「…………どうなんでしょう。嫌いになって私から振ったっていうわけじゃないから……」
付き合っていた頃より確実にトーンダウンしているけれど、「もう何とも思っていない」と断言できるほどすっきり出来ているわけじゃない気もする。
「未練があるってわけじゃないと思うんですけど、なんとなくまだもやもやしてます」
「人間だからね、そりゃスイッチみたいに簡単に切り替えることなんて出来ないよな……」
独り言のように呟く越川さんに、私は小さく頷いてから弱音を漏らした。
「そもそも私は、たぶん恋愛に向かないんだと思います」
「………なんで?……恋愛とか面倒?」
「そういわけじゃないんですけど……デートしても『つまらない』って言われちゃうんです」
水族館に行ったときも、『こういう場所に連れて来てやってもおまえきれいとかかわいいとか、そういう言葉ひとことも言わないんだな』となじられた。
先月車で絶叫マシーンが有名な遊園地に連れていってもらったときなんて、デートの途中で『全然楽しくなくても少しは楽しそうなフリするのがオトナのマナーだろ。おまえはそんな気遣いも出来ないのか』と激怒されて、その場に置き去りにされてしまった。
「で、藤村さんそのときどうしたんですか」
「しょうがないから高速バスで帰ってきたんですよ。遊園地から東京駅までのシャトルバスが出ていたから」
「そうじゃなくて。……いくらなんでもひどすぎる仕打ちでしょ。その元彼に何か言ってやらなかったんですか」
私より越川さんの方がよっぽど腹を立てているような顔をするけれど、私は当時の苦い気持ちを思い出しながら力なく笑った。