恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
「私の方も悪かったんですよ。だって好きな男とのデートにはしゃげない女なんて、やっぱりカノジョにしておく意味ないじゃないですか。私が男でもつまらないし腹を立てると思いますよ」
「それは違うだろ」
越川さんはもうお皿の上のデザートに見向きもしないで、すこしだけ怖い顔をして私に言ってくる。
「だって藤村さん、その頃仕事立て込んでて実家のお父さんも入院してたんでしょ?そんなときに無理に『ほら楽しめ』、『さあ気分転換しろ』って言われたって出来ないでしょう」
「…………あれ、私実家のこと言いましたっけ……?」
「酔ってる?さっき話してくれたでしょう、お父さんが脳梗塞で倒れて一時は意識不明だったって。回復した今も後遺症があってお母さんが介護してるとか、仕事もパラリーガルの大先輩が急に田舎に帰っちゃって、その人の仕事引き継ぎもなしに振られていっぱいいっぱいになってたとかって」
お酒と食事の合間合間に、まるで私の身に溜まった愚痴を聞き出そうとするかのようにさりげなく越川さんが水を向けてくれたから、確かに私はぽつりぽつりとそんなことを話していた。
さらりと話したつもりだったのに、細かい話をちゃんとすくいあげて聞いてくれていたんだと思うと、胸が心地よい強さできゅっと締め付けられる。
「その男、自分のしたいことを押し付けてるだけでしょ。カノジョに『いろいろしてやった』って自分がいい気分になりたいだけじゃないですか」
越川さんはいかにも面白くなさそうに、子供みたいにぶすっとむくれた顔して健吾のことを批難してくる。