恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
「藤村さんは悪くないでしょう。そんな独り善がりなデート、楽しめなくて当然だよ。そのとき藤村さんは楽しむ余裕もなかったんだから。疲れ果ててるカノジョを明け方に叩き起こしに来て強引に連れ去っておきながら、助手席でちょっとでも寝たら怒り出すとか勝手すぎだろ。そんなのサプライズって言葉を借りた単なるテロだっての。
……疲れてるカノジョを癒してあげたいならもっと他に方法あるはずなのに。スパにでも連れてってあげるとか、家で手料理食わせてやるとかさ。そうじゃなくとも藤村さんがカレシにしてもらったらうれしいことをちゃんと事前リサーチすりゃいいのに。デートが盛り上がらなかったのを全部藤村さんだけの所為にするとかどんだけ勝手な男だよ」
「越川さん、手料理得意なんですか?」
あまりに真剣に怒ってくれている越川さんの態度がくすぐったくてわざと矛先を変えるような話を振ると、越川さんはきょとんとする。
「料理、ですか」
「手料理食べさせてあげるって言ってたから」
「いや……えっと、」
聞き取れないくらいちいさく自信のなさそうな声で「作りますよ。カレーくらいならなんとか」と越川さんは答えた。
「俺と付き合ってもたいしてメリットもありませんけど。………カノジョにお願いされれば、そりゃ台所に立つくらいのことは………」
するつもりですよ、と言う声が小さく先細りしていく。
お家で手料理が正解なのか、遊園地での気晴らしが正解なのか、そんなことはわからない。
たぶんいつもアクティブな友里さんだったら、私とは違って落ち込んでいるときにあちこち連れまわしてもらった方が喜ぶんだろうなって思う。彼女の方がきっと私なんかより健吾の波長に合うんだろうなって。
つまり私の失恋は、ただそれだけの話なのかもしれない。
健吾と私は性格的に合わないことが多かったけど、でも何よりも合わそうと出来なかったことが別れたいちばんの原因だったんだろう。
私が健吾に口には出せずに心の中で「今はそっとしておいてほしい」と願っていたように、健吾も口にださなくても私に望んでいたことがたくさんあるはずだ。それを察することが出来なかった私もいけななかったんだ。
今なら自然とそう心に折り合いがつけられる。