恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
越川さんに短冊を貰ったとき、書き損じたときのために予備の短冊を多めに貰っていたのだけど、そのうち一枚に越川さんの名前と連絡先が書き込まれていた。その短冊を見て、越川さんはなんともきまり悪そうに頭を掻く。
「……実はあのとき短冊ごと藤村さんに連絡先渡すつもりで、でもなんかいかにも安いナンパっぽくて、チャラそうに見られたら嫌だからやっぱ渡すのやめようって決めたんですよ。……なのに結局、うっかり藤村さんの短冊に紛れ込んでたんですね……」
私が笑うと、越川さんは慌てて弁解するように言ってくる。
「あの、ホントに、いつもこんなことしてるわけじゃないんです。ウソじゃなくて、連絡先渡そうとしたの、藤村さんにだけなんです。ってなんかこんなこと言ってると余計嘘っぽいんだけど、本気でまた藤村さんと飲みに行きたいんですっ」
「………じゃあ次は、私から連絡しますね。私も越川さんと、また飲みに行ったりごはん食べに行きたいです。今日は私の短冊のお願い事、かなえてくれてありがとうございました」
私がその場でぺこりを頭を下げると、越川さんはうれしさを隠しきれないとでもいうように唇を弓なりにさせた後、ちいさく囁いた。
「じゃあ次は俺の願い事が叶うといいなぁ」
「………越川さんの願い事って?」
「それは秘密です。当ててください。欲しいものが手に入りますようにってお願いしたんですけど、俺の欲しいものってなんだと思います?」
私を見て、意味ありげに笑う。ぐっと男臭くなった越川さんの笑みに、私の胸はどきりとさせられる。
急にこなれた大人の男みたいな表情をする越川さんに、からかわれてるのかなと不安になって「そんなのわかりません」と固い声でいうと、越川さんはふっと笑って言った。
「………まあ、これからその願い事が無事に叶うように、俺なりに頑張ってみようと思います。願いごとが叶うためには、願うだけじゃなくて必死こいて努力することも必要ですからね」
越川さんの言う通り、私と彼はまだまだ知り合ったばかりだ。
でも私にははっきりとした予感があった。たぶん彼の願いはきっとすぐ叶う。
だって叶うかどうかは私次第だ。越川さんは私からの一言を待っている。待ってくれている。
次の恋に踏み出したいというなんとなく抱いていた気持ちを、はっきりと形にしてくれたのは越川さんだ。私は彼を知りたい。もっと話がしてみたい。
そんな関係に進展したいと本気で望むなら、私の方も努力が必要だ。
照れや戸惑いはある。けれどぐっと決心して、私は思い切って「私も前から越川さんのこと気になっていました」の言葉から始まる、告白のための言葉を話し始めた。
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