恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
(あいつのどこが前よりきれいになったんだよ。………あいつはもっときちんと化粧させた方が見栄えするのに)
おそらく千草の相変わらず無難なスーツも以前よりもっと控えめになった化粧も、千草の男の趣味なのだろう。
千草の新しい男のことは健吾も知っていた。同じビルで働いていて、時折エントランスやエレベーターで見かけるでかい図体の男で、やたら千草に馴れ馴れしいと不快に思っているうちに、いつの間にやら千草をモノにしていた。
千草にあんな色気も何もあったもんじゃないひっつめた髪に、以前よりもっと垢抜けない真面目腐った服装をさせるなんてあの男は千草のことを全然わかっちゃいないと思う。
(千草はもっといい女なのに飼い殺しやがって)
心の中で呪っていると、不意にシャツの袖口をクイクイ引っ張られる。
「ねえ健吾先生、私の話聞いてます?」
隣にいた木田友里に甘えた声で言われて、今度は堪え切れないほどイラっときた。いい加減、業務中だというのに無駄口が過ぎるしくっつき過ぎだろう。
(ここが職場だって忘れてないか、この女)
2、3回抱かれたくらいでもう女房気取りかと心の中で木田に毒を吐く。
(これだから歳がそこそこいってるこなれた女は面倒臭ぇ)
千草だってそう特別若かったわけじゃないけれど、千草の場合恋愛方面が疎すぎて、反応がまるで年端のいかない女の子のようだった。ちょっとかまってやるだけですぐ顔を赤らめる千草は、父親の事務所に入社して以来健吾の恰好のオモチャだった。
たまに気まぐれで仕事帰りに食事に誘ってやると、うれしそうにはにかみながらも緊張したようにオドオド視線を逸らすその態度が面白かった。