恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
『おまえとさ、付き合ってても全然楽しくないんだよ』
私が恋人だった人に、失望交じりにそう言われたのは先月のこと。
背が低くておまけに童顔な私は、見掛けだけを見られて『守ってあげたくなるタイプ』とか『純真そう』とか、昔からそんな風に思われることが多かった。
そういう『可愛い女の子』のイメージを利用するくらいのしたたかさがあればよかったのだけど、恋愛下手な私はいつも「思っていた感じと違った」という理由で振られてばかりだった。
『もっと素直で可愛いヤツかと思ってたのにてんで期待外れ。おまえいつも疲れた顔して、こっちが何言っても何やっても反応薄くてさ。そんなに俺と会うのは退屈だったのかよ』
つい最近恋人に別れ話を切り出されたときも、捨て台詞のようにそう言われた。
たぶんあの人は、デートのときいつも少女のように笑ってはしゃぐ女の子と付き合いたかったんだろう。仕事のときは無理に社交的に振る舞おうとして必死になっていても、本当は内気で引っ込み思案な私じゃきっとダメだったんだ。
終わってしまった恋のまだ生々しい記憶を思い返しているうちに、乗り込んだエレベーターの中で無意識に「はあ」とため息を漏らしていたらしい。3階に到着して私が降りようとすると、背後から控えめな、でも気遣いのある声で突然話し掛けられた。
「あの。お仕事、頑張ってください」
(え?)
振り返ると、もう扉が閉じようとしていた。その向こうで名前も知らない彼はかすかに微笑んでいた。控えめだけどあたたかなその笑顔は、朝から表情が冴えずにいる私にたしかにエールを送ってくれていた。