恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~

自覚していることだけど、健吾は少々気が短い癇癪持ちで、それを友人たちに揶揄されることがあった。けれど千草は健吾が感情的に当り散らしても決して反論しない。後から健吾が自分で思い返しても「理不尽だった」と思うようなことで怒っても、千草はいつも何も言わずに聞き入れる。

そんな千草を見ているうちに、だんだんと「俺は千草にとってなんなんだ」と疑問を持つようになった。

千草の態度は従順というよりただ健吾の言うことをすべて無難に受け流そうとしているように見えて、自分の言葉も態度も彼女の上をただ通り過ぎていくだけのようなむなしさを感じるようになっていた。


『もう別れるか』


ただ試すつもりだった。


遊園地に置き去りにしたことは後から思い出すと自己嫌悪に陥るくらい、自分でも幼稚な行動だったと苦く思っていた。でも千草は一切責めてこなかった。それがかえって、自分のやることなすこと千草にとってはもうどうでもいいんじゃないかという疑惑を抱いた。だから付き合い初めには確信のあった千草の恋情を確かめてみたくなって切りだした。


本気で別れようと思っていたわけじゃない。


(なのにあいつはあっさり受け入れた)


別れようと言ったときですら、千草は何も反論せずただ俯いてちいさく頷いた。そんな千草の態度に腹を立ててわざと『おまえと付き合っても楽しくない』などと辛辣な言葉をぶつけていた。ただ彼女の心に爪を立ててやりたかった。


なんで泣いて引き留めない。なんで別れる別れないの場面でそんなに物わかりのいい態度を取るんだ。


………おまえは俺のこと、本気で好きだったんじゃないのか。


千草が『別れたくない』と言ってきたらいつでも受け入れてやるつもりだった。別れを切り出した翌日に、泣きやつれた後みたいな顔して出社してきたから、千草が縋ってくるのも時間の問題なんだと思っていた。いい気になっていた。


なのに。


< 40 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop