恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
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「健吾先生、健吾先生」
事務所に戻ると、すぐに木田友里が駆け寄ってくる。また旅行の話かといい加減うんざりしていると、木田は健吾の前に化粧品やらお菓子やらのギフトセットが載ったパンフレットを見せてきた。
「ねえ健吾先生はどれがいいと思います?個人的にはマッサージャーとアロマオイルのセットがいいかなぁって思うんですけど。今事務所のみなさんに多数決してもらってるんですよ。いいと思うプレゼントに丸付けてもらえますか?」
何の話だと訝しんでいると、木田は笑いながら言ってくる。
「もう忘れたんですか?千草ちゃんの退職祝いですよ。もうすぐ買って用意しておかないとダメでしょ?」
言われて思わずカレンダーの日付を見る。もうすぐで7月も終わる。赤マーカーの花丸が咲いている最終週の金曜日には、千草の送別会が開かれる予定だ。
「みなさんから徴収したうち、5千円はお別れ会の千草ちゃんの会費で、残りの5千円はお花代、残りのもう5千円でギフト贈ろうと思ったら伊佐木先生がポケットマネーで1万円も出してくれたんですよ。結構まとまった金額になったから、何をプレゼントするか悩んじゃって。健吾先生は何がいいと思います?」
「………そんなの適当でいいだろ」
健吾があしらおうとすると、木田は「ひどい」と声を上げる。
「もう健吾先生ってば、千草ちゃんに冷たいんだから」
批難するようなことを言いながら木田は笑っている。健吾と本気で付き合うつもりでいる彼女は、口とは裏腹に元カノの千草がいなくなることを喜んでいるのだ。そんなことも、健吾にはもうどうでもよかった。
ただ思う。早くいなくなればいい。間近で千草の変化を見ていなきゃならないなんて冗談じゃないと。
早く千草がいなくなってくれれば、さぞかし清々するはずだ。するはずなのに。
(だったらこの気持ちはいったいなんなんだ?)