恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
千草はこんなにかわいくて、物腰がやわらかくて、ふわふわしていて、彼女自身が甘いお菓子のような人だ。こんな子とふたりきりで出掛けるようになれたのも、彼女をフリーにしてくれたあいつのお陰だ。
彼女にとって失恋は辛いものだったろうし、その不幸を喜ぶようで後ろめたさはあるけれど、彼女のまだ完全に癒えきっていないであろう失恋の痛みは、恋人に昇格してもらえたあかつきには誠心誠意全力を持って癒す所存だ。
だからやっぱりお礼を言わせてほしい。
(彼女を振ってくれてありがとうございます。彼女が俺を選んでくれたときは、俺があなたの代わりに全力で彼女を幸せにして見せます)
◇
カフェ巡りを楽しんだ後。
最後の店で夕食を済ますと、名残り惜しい気持ちを引き摺りながらも彼女を見送るために駅の構内に来ていた。
「じゃあ藤村さん、来週はアルドリッジホテルのバイキングに行きましょうね」
千草と出歩くようになってからは、彰人は以前よりもこまめにグルメ系のサイトや雑誌をチェックするようになった。そして先日、有名な外資系ホテルがスイーツビュッフェを始めたと知った。
アルドリッジホテルは流行や洒落たものに敏感なOLなら誰でも憧れるようなラグジュアリーホテルで、そのレストランやバーもとても評判がいい。それで今日千草に話して、千草も話に食いついてくれたのでふたりでビュッフェに行く約束を早速取り付けたところだった。
「アルドリッジ、本当に行くんですね。……ちょっと緊張するなぁ」
千草はすこし固い声でそういいつつも、その目を期待でなのかきらきらさせている。
「いくらスイーツと軽食のバイキングだからって、アルドリッジホテルに行くんだからドレスコード、気にした方がいいですよね?……私、来週はもうちょっとカチッとしたきれいめな服着てきます」
今日みたいなラフでカジュアルな格好も十分可愛かったけれど、いつもよりもおめかしをした彼女もやっぱり可愛いんだろうなとつい想像してしまう。
自分にしては珍しく、高級ホテルのレストランで供されるスイーツよりも、当日の彼女の姿を拝むことの方が楽しみになってしまっていることに、かなり本気で彼女に夢中になっていることを自覚する。