恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
「ビュッフェ、楽しみですね」
来週の約束を思うだけで、そう千草に問いかける口の端が自然と上がっていく。
友人たちにはせっかくホテルの食事に誘うなら、「ランチじゃなくてディナーにしろ」「女にはとりあえず高層階で夜景を見せておけ」「せめて最後はバーで締めろ」と四方から突っ込まれまくり、極め付けは親友にすら「部屋を取っておけ」と言われた。
いつか彼女をそういうシチュエーションに誘いたいとは思っている。でもまだ今は健全な昼間のデートだけでいい。それだけでも十分たのしいし、何よりじっくりと、けれど逃げられないように確実に距離を縮めてから、いつかそんな場所に彼女を囲い込むことが出来ればそれでいいと思っているから。
(それに勝負に出るなら、俺の方も心の準備が必要だしな)
千草は絶対に逃したくないと思っている相手だ。
彼女といると彼女の人柄や可愛らしさに癒されるし、心地いいのに彼女に気に入られたくてヘンに緊張もしてしまうし、急にたまらなく抱き締めて自分のものにしてしまいたくなって煩悶したりして、一緒にいるといろんな感情がミックスされてどうしようもなく胸の鼓動が熱くなってしまう。
(長く一緒にいたいと願う相手なら、それ相応の時間をかけて口説く覚悟がなきゃダメだろう)
今日も彼女を引き留めたがってる自分に心の中で厳しく叱咤すると、「それじゃあまた来週」といつもの挨拶を口にしようとする。
けれど今日はそれよりも先に、千草が緊張した面持ちで「あのッ越川さんっ」と突然呼びかけてきた。
「うん?どうしたの、藤村さん?」
千草はなぜかちいさく震えながら、顔を赤く染めている。
「あ、あの……越川さんはアルドリッジホテル、よく行かれるんですか……?」
「えっ……いや、はじめてですよ?さすがにあんなハイクラスなホテル、いくらスイーツ馬鹿でも一人で行く勇気はなかなかなくて」
千草と一緒じゃなきゃ、たとえ大好きなスイーツのためでもなかなか行こうと思わない。
アルドリッジホテルの格式はそんなに安いものじゃない。たとえ食事だけの利用だとしても特別な相手と行くに相応しい、特別な場所だと思っている。
「俺は藤村さんじゃなければ、ああいうリッチな場所に誘ったりしませんよ」
さらりと漏れた本音に、なぜか千草の顔はますます赤くなる。