恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
「あ、あの越川さん?………あっ」
返事の代わりの意思表示に、ずっと繋いでみたいと夢見ていた彼女の手を思い切って取っていた。びっくりして目を見開く彼女をよそに、そのちいさな手を握り締める。
「藤村さん。今日から名前で呼んでもいいですか」
尋ねると千草ははずかしそうに俯きながらこくりと頷く。
「千草さん、好きです。めちゃくちゃ好きです」
雑踏に紛れてしまいそうなちいさな声で、でも確かに千草は「はい」と応えてくれた。
「俺の彼女になってください」
「そんなの。………ほんとうはもうとっくに、お友達じゃなくてそういう気分でいました」
千草ははずかしそうにそう告白してくる。
「つまり俺のことを好きになってくれたって、そう思っていていいですか」
千草は素直にこくりと頷く。
赤く染まっていく彼女の華奢な首筋が可愛らしくもどこかエロティックで、あやうい色気が漂っている。
ちゃんと言わせてみたい気もするけれど、彼女に選んでもらえたという甘い満足感が胸を満たしてくるから、今はまだここで「好き」の言葉を引き出せなくともいい。
それにこのかわいらしいひとから「好き」の言葉をどんなシチュエーションなら言わせることができるかなどと考えていると、それだけで胸があやしく高鳴ってくる。
(めちゃくちゃたくさん「好き」だと言って、これから同じくらい「好き」を返してもらうんだ)
人が忙しなく行き交う駅の構内でいきなり彼女を抱き締めて、恥ずかしさで上げる「きゃっ」という彼女の悲鳴を彰人は心地よく聞いた。
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