恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
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扉を開けたその先で、同じ年頃の男女がたのしげに喋っていた。
「ほんとほんと。友里さんにぴったりだと思うんだよね」
「もう、中原先生ってば。友里って呼ばないでくださいって言ったでしょ、私は木田です」
「いいじゃない、友里さんで」
「ほんとチャラいですね、中原先生ってば。それで何人の女の子口説いてきたんですかぁ?」
私の先輩である友里さんは、文句を言いつつもまんざらでもなさそうな顔して笑っていた。
「ひどいな友里さん。そんなに俺信用ない?傷ついたから癒してよ」
そう友里さんに絡んでいるのは、この事務所の所長の息子で弁護士の中原先生だ。
友里さんは建前では中原先生からのアプローチをかわすような態度を取っているけれど、以前は遅刻ギリギリのタイミングでしか出社しなかったのに、最近は他の所員が来るよりも早く来て中原先生との二人っきりの時間をたのしんでいる。
まだ付き合っていないらしいけれど、二人の関係が今後どう発展するかなんて誰の目から見ても明らかだった。
「あ。千草ちゃん、なんだ来てたんだ」
気まずい思いでしばらく入り口で突っ立ったままでいた私に気付くと、友里さんはどこか優越をにじませた声で私に話し掛けてくる。
「おはよう。もう、声かけてくれればいいのに。早く入ってきたら?」
そう言いながら同意を求めるために友里さんは可愛らしく中原先生に「ね?」と聞く。その甘えたようなしぐさは恋人に見せるような態度だ。今日も二人の時間を邪魔してしまったことを苦く思いながら、私はすこし固い声であいさつを返す。
「おはようございます、友里さん。………中原先生」
すこしだけ迷った末にそう呼ぶと、今日も仕立てのいいお洒落なスーツに身を包んでいる中原先生は私をじっと物言いたげに見つめてきた。ずっと健吾先生って呼んでいたのに、今更苗字で呼ぶなんてかえって白々しいとでも思ってるのかもしれない。
(………でももう他人同士なんだから、名前でなんて呼べない。わかってるくせに、そんな目で見なくたっていいでしょ……っ)
責めるようなまなざしから逃げるように私は先生から目を逸らす。同じ職場にいる別れた恋人との距離の取り方なんて、私にはわからなかった。