恋する七夕 ~ピンクの短冊に愛を込めて~
2.ピンクの短冊
(2)ピンクの短冊
(あ、彼だ)
駅から歩いていると、周囲とは頭ひとつ分飛び出したその背中にすぐ気付いた。
今日は土曜日。彼の職場は土日は休みらしく、平日以外で彼を見かけたのは今日が初めてだった。彼は手に何か白い布で包まれた棒のようなものを抱えていて、何だろうと気になってそっと近づいていくと、いつもは一人で歩いている彼の横に若い女の子が並んでいることに気が付いた。私は慌てて彼らに追いつかないように歩調を緩める。
彼と女の子は、周りになんて意識が向かないほどに何かとても熱心に話し込んでいた。
「でっかい図体してほんとチキンね。それでも男なの?フリーかどうかなんてそんな聞いてみなきゃわからないことでグズグズしても時間の無駄でしょ。どうすんのよ、7月7日までもうすぐじゃない」
「そりゃそうだけどさ。急げばいいってもんでもないだろ」
どうやら一緒にいる女の子は彼と同じ職場の同僚みたいだ。だけど強い語調で遠慮なく言い合ってるところからして、ただの職場の仲間という以上に親しい仲のようだ。
「男ならガッツ見せなさいよ。草食なんてもう流行ってないから。時代は肉食、取って食べちゃいなさい」
「無茶言うなっての、まだまともに喋ったこともないんだ」
「見つめてるだけで満足って、あんた中学生の恋かっての。いい歳の男が純情とか、怖いの通り越してキモいわ」
「うっさいな、お前と違って向こうは野に咲く花なの、遠目から愛でて幸せになれるタイプなの」
「なにそれ。ほんっとキモいから。単に臆病なだけのくせにガタガタ言い訳してないでさっさと口説いてきなさいよ。そして玉砕すればいいわ、このチキン」
よほど気心知れた間柄らしく、何やら二人の話は白熱していて、「おはようございます」と声を掛けて邪魔することは躊躇われた。
今日は女の子に合わせてゆっくり歩いている彼を、あたしは後ろからそっと追い抜かそうとする。目立たないように静かに動いたつもりだったのに、通り過ぎようとした瞬間、隣で「あっ」と弾けるような声があがった。
その声の大きさに驚いて思わず振り返ると、彼と目が合った。